ITの技術が必要なのは、システムのソフトウェアやインフラの管理だけではありません。
ここ20年ほどで、家電製品や産業機械、通信機器のIT化が大きく進みました。
AIによる自動制御によって自動車、冷蔵庫、炊飯器、スマホ、レジなど、それまでは人間の手だけで動かしていたものがプログラム制御によって動かすことが可能になりました。
このように家電や機械を成業するためのプログラム、システムを開発するのが「組み込みエンジニア」です。
今回はこの組み込みエンジニアの独立について解説します。
実際に組み込みエンジニアとして独立して活躍できるのか、しっかりチェックしてみてください。
組み込みエンジニアとしての仕事とは?
まず、組み込みエンジニアの仕事について改めておさらいします。
基本的なことなので今一度押さえておいてください。
組み込みエンジニアの仕事内容を簡単にチェック
組み込みエンジニアとは、家電製品や産業機械など日用品に組み込まれるソフトウェアを開発するエンジニアです。
さまざまなものがアナログからデジタルへ移行する中で、身の周りにある製品の多くは、これまでの手動操作から、ソフトウェア制御になっています。
逆に製品本体だけでは動かない機能が増えてきたため、それを制御するためのシステムを開発し、製品に組み込んでいくことが組み込みエンジニアとしての仕事になります。
組み込みエンジニアの必要なスキル
組み込みエンジニアとして活躍するには以下のスキルが必要です。
みなさんはどのくらい習得していますか?
プログラム言語
組み込みエンジニアとしてマスターしたいプログラムは以下になります。
あまり、現在のソフトウェア開発で用いられないものも中にはあり、古いプログラム言語もあります。
- C言語
- C++
- C#
- Java
- アセンブラ
- TRON
- T-Kernel
これらのプログラム言語はほかのエンジニア分野でも応用が利くものもあります。
製品への知識
プログラムだけを打てればよいものではありません。
家電製品など、ご自身が担当するものについて、その構造や機能についても理解を深める必要があります。
機械の構造やOSの動作に関する知識は組み込みエンジニアにとっては必須の知識になります。
電子基板やコンピューターの知識
組み込みエンジニアは基本的にはプログラムだけの仕事ですが、場合によっては場合に電子基板の設計を行うこともあります。
電子回路の基本的な知識があると仕事の幅が広がります。
高校の物理の勉強を見直すことをおすすめします。
また、家電製品などに入っている小型コンピューター(マイコン)の知識があると、ソフトウェアだけではなくハードウェアの対処もできるようになります。
広く深く製品について学ぶことで、独立開業後多くの仕事を請け負うことができます。
語学力
組み込みエンジニアが扱う製品の中には、日本製以外のものも多く(むしろこれが多数)、海外とのやり取り、マニュアルの読解(英語)などに際しては、語学力、特に英語力は不可欠です。
最近はGoogle翻訳なども賢くなりましたが、ある程度の語学力があると、スムーズにシステム開発ができます。
コミュニケーションスキル
当然、SEなどに求められる対人コミュニケーションスキルも重要です。
組み込みエンジニアの場合、メーカーとのやり取りが発生する可能性があります。
スムーズにやり取りできるのは、システム開発の基本中の基本です。
組み込みエンジニアとして取得しておきたい資格
スキルについてはあくまで漠然としたものですが、躯体的に取得しておきたい「資格」もあります。
必須ではありませんが、これらの資格を取得することで、独立後仕事を取るときにアピールできます。
ETEC | 「組込み技術者試験制度」というそのものズバリの資格試験です。 合格制ではなく、得点によってA~Cのレベルが付与されます(Aがよい評価)。 難易度はそこまで難しくなく、大学生や専門学校生でも取得可能です。 組み込みエンジニアとして独立したい人は、今から勉強しても十分によい評価が得られます。 試験の運営は「一般社団法人組込みシステム技術協会」という日本国内の団体です。 |
OCRES | 世界130ヶ国以上で実施されているOMG認定組込み技術者資格試験プログラムです。 ETECが「英検」だとすると、このOCRESは「TOEIC」や「TOEFL」のようなイメージです。 海外案件も考えている場合は、こちらの取得はほぼ必須になります。 下位急に合格しないと上位級の受験ができません。 |
基本情報技術者試験 | 組み込みエンジニアに限らず、エンジニアとしての基本的素養を身につけるために必要な資格です。 自動車の普通免許のようなものなので、エンジニアとしてやっていくための基本的な内容が詰まっています。 |
組み込みエンジニア独立までの道のり
組み込みエンジニアとして独立するには以下の2つの方法があります。
会社員として実務経験を積む
システムエンジニアやインフラエンジニアなど他のエンジニアと同様、会社員として組み込みエンジニアの実務を経験したのちに独立します。
この方が、技術力については担保でき、独立後の仕事依頼も来やすいです。
独立までの目安は3年~5年になります。
もちろん、それ以上10年実務経験をしての独立もOKです。
独学する
通信講座などで組み込みエンジニアを独学するという方法もあります。
「組み込みエンジニアコース」がある通信講座、オンライン講座を見つけて学習します。
ただそれだけでは、実力は認められないので、開業前にクラウドソーシングなどで何件か、組み込みエンジニアの仕事を請け負えると、ある程度の実績につながります。
単価も安く、依頼主も匿名のものもありますが、簡単な案件をやってみて、自分の技術力を把握してください。
開業(会社設立or開業届)前にクラウドソーシングで請け負っても違法ではありません。
ただし、年間20万円以上売り上げれば確定申告が必要になります。
組み込みエンジニア独立後の年収は?
組み込みエンジニアの年収は、おおよそ500万円台後半~700万円です。
似た職種のシステムエンジニアが約800万円、インフラエンジニアが約750万円であることと比較すると低めになっています。
ただし、公共案件も少なく、行政やインフラ企業ではなく、家電メーカー等がクライアントになるので、精神的には楽です。
特定の家電に特化すれば、スペシャリストとして活躍することも可能になります。
組み込みエンジニアの将来性
組み込みエンジニアとして独立するメリットとも直結しますが、組み込みエンジニアが行う分野の将来性について考察します。
どの分野も将来性はあり、今後、組み込みエンジニアのニーズは高くなることが予想されます。
自動車業界 | EV化に伴う、エネルギー供給システムの改良に加え、自動運転化、ブレーキシステム搭載車、ハイブリッド車の生産拡大などこれまでとは異なる大きな変革が予想されています。 これらに対応するため、電気部品を制御するシステムが必要となり、組み込みエンジニアの需要が増えることが予想されます。 |
家電業界 | 家電のAI化、エアコンやテレビの遠隔操作など従来自分の手で行っていた家電も、家電自体がこちらの指示、操作なしで動くような「スマートホーム」の流れは止まりません。 これらの家電を制御するためのシステム開発として、組み込みエンジニアの需要はますます増大します。 |
医療業界 | オンライン診療の拡大や「Internet of Medical Things」(IMT)の推進の中で、専門の医療用機械の需要が増大しています。 そこに組み込まれるプログラムを扱う組み込みエンジニアの需要も増えています。 |
総じて、組み込みエンジニアの需要が減る予兆はなく、今後、人の取り合いになり、年収も高くなることが予想されます。
当然、独立していて技術が認められれば、高収入が期待できます。
需要が増えれば、組み込みエンジニアの方で単価を上げることもできます。
組み込みエンジニアの独立メリットとデメリット
組み込みエンジニアの将来性や需要については期待できそうです。
それを踏まえて、組み込みエンジニアとして独立開業するメリットとデメリットをまとめてみました。
組み込みエンジニア独立のメリット | 組み込みエンジニア独立のデメリット |
---|---|
社会のIT化進展により需要増が期待できる | 家電や通信機器は幅広く、1つを極めただけでは応用が利きにくい |
他のエンジニア分野にも進出できる | 給料ではないので収入が不安定 |
ワークライフバランスある働き方ができる | 身体を壊した時の金銭的保障がない |
場合によっては在宅ワークも可能 | SE以外の経営や会計も行う必要がある |
著名な会社の製品システムを手掛けられる | 一人で孤独な作業となりモチベーション低下につながることも |
人脈、ネットワークが広がる | 営業をかけたり案件に応募したりしないと仕事を獲得できない |
自分だけの「実績」を得られる | 1つの案件が長期化しやすい |
なにより「やりがい」がある | 年収がエンジニア職の中では低め |
将来的な安定性は高いのですが、他のエンジニア職と比較して年収が低めなのが気になります。
ただ、さまざまな分野の組み込みを手掛けることができれば、年収は高くなります。
そのほかのメリットとデメリットは、エンジニア職に共通します。
仕事を選べるようになるので、ワークライフバランス重視の生活が可能で、在宅ワークなどもできるようになります。
組み込みエンジニアは独立開業時法人化(会社設立)すべきか?個人事業主でもよいか?
独立開業の際、法人化(会社設立)と個人事業主という2つの選択肢があります。
組み込みエンジニア独立の場合、どちらがよいのでしょうか?
結論は「個人事業主でよいが、将来的な売上増や信頼を得たいならば適切な段階で法人化(会社設立)」となります。
最初から法人化しなくてもよいですが、ある段階で法人化を検討してみてください。
法人化と個人事業主のメリットとデメリットは以下になります。
組み込みエンジニアを法人化し開業する |
組み込みエンジニアを個人事業主として行う |
メリット |
|
社会的信用がある(取引先から見て) |
簡単に設立できる |
経費の範囲が広い |
定款などの作成義務がない |
責任の範囲が有限 |
自由な働き方ができる |
赤字繰り越しが10年である |
廃業手続きもすぐにできる |
売上が多くなれば個人事業主よりも税率が下がる |
社会保険に加入できないため、国民健康保険と国民年金では老後が不安 |
最高税率が23.2%と所得税の約半分 |
|
デメリット |
|
設立までの手間がかかる |
社会的信用がない |
設立後の帳票作成や税務申告が大変 |
最大税率45%と法人税よりはるかに高い |
赤字でも法人住民税がかかる |
無限責任で経営失敗のマイナスはすべて自分が負う |
社会保険へ加入しなければならない |
赤字繰り越しが3年までしかできない |
会社の廃業手続きが煩雑 |
経費で落とせる範囲が狭い |
法人化すると社会的信用が上がりますが、経理や諸手続きが大変です。
個人事業主の場合、スキルに自信があれば「フリーランス」としてやっていくことはできます。
まず、ご自身のスキルでどこまで対外的な信用を得られそうか考えてみてください。
税金面でも法人化した場合と個人事業主では差が出ます。
事業主体 | 法人化(会社設立) | 個人事業主 |
---|---|---|
所得税 | 代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その5%~45% | 事業の売上から「事業所得」を算出してその5%~45% |
個人住民税 | 代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その約10% | 事業の売上から「事業所得」を算出してその約10% |
消費税 | 課税売上1000万円以上の場合支払う(2年間は支払い義務がない特例もあり) | 課税売上1000万円以上の場合支払う |
法人税 | かかる(15%~23.2%) | なし |
法人住民税 | かかる | なし |
法人事業税 | かかる | なし |
個人事業税 | なし | かかる |
年間売上が約1000万円を超えるあたりで、支払う税金が「法人税>所得税」になります。
逆に考えると、売上(≒年収)がそれに満たない場合は個人事業主の方が納税額は低くなります。
上述のように、組み込みエンジニアの年収は500万円台後半~700万円なので、これを納税の計算公式にあてはめると、個人事業主の方が節税になります。
もちろん、対外的な信用など別の要素もありますが、税金面だけを考えれば独立開業当初は個人事業主でも問題なさそうです。
実際に法人化と個人事業主、どちらにするかは専門家のアドバイスも聞いてみてください。
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組み込みエンジニアの独立開業資金は?
開業にあたり「開業資金」が必要なケースがあります。
組み込みエンジニアの独立は、自宅開業も可能なので、そこまで多額の開業資金は必要ありません。
独立開業費内訳 | 金額 |
---|---|
物件取得(敷金礼金仲介料) | 50万円(自宅開業なら不要) |
パソコン(高スペックなもの) | 50万円(所持しているなら不要) |
オフィス用品(什器、電話、FAX等) | 30万円(自宅開業なら不要) |
運転資金(当面の生活費) | 50万円~70万円 |
合計 | 高くて200万円 |
(法人の場合)法定設立費用 | 6万円~20万円+資本金 |
自宅開業の場合やクライアント先常駐の場合、事務所を用意する必要はなく、開業資金は当面の運転資金(生活費)程度で問題ありません。
仕入れが発生する業種でもないので、一通りのパソコンやマシン、什器備品を買いそろえれば、あとはすぐに仕事を始められます。
自己資金だけでも十分開業できそうですが、もし開業資金の調達をする場合、「創業融資」を日本政策金融公庫や商工会議所、商工会、自治体の創業窓口で相談してみてください。
それ以外では、開業、会社設立、資金調達に詳しい「経営サポートプラスアルファ」まで、ぜひお問い合わせください。
組み込みエンジニアの独立開業相談は「経営サポートプラスアルファ」にお任せ!
組み込みエンジニアの仕事は、華々しさはありませんが、今後大きく授与が伸びると予想される分野の仕事です。
現在は、システムエンジニアやインフラエンジニアに年収は劣りますが、さまざまな家電や通信機器がよりオートマ化する中で、優れた人材の取り合いになり、年収が逆転することも予想されます。
今のうちに、スキルのある組み込みエンジニアの方は独立し、一定の地位とコネクションを作っておくと、かなり展望が開けるはずです。
独立開業にあたっては、ノウハウやタイミング、専門知識が必要になる場面もあるため、ぜひ専門家のアドバイスを聞いてください。
「経営サポートプラスアルファ」には、独立開業、会社設立、資金調達、開業後の経理処理などに詳しいプロフェッショナルがそろっています。
適切なアドバイスによって、より良いタイミング、環境での独立をぜひ目指してください。
「経営サポートプラスアルファ」の相談は、土日祝日夜間も対応します。
また、遠隔地にお住まいの方はLINEやZoom、チャットワークなどでも対応しますのでご安心ください。
悩むくらいならば専門家に聞き、ぜひ独立を考えてください。
今が組み込みエンジニアの独立の大きな機会ともいえます。