従来の終身雇用が崩れ、ご自身のスキルを活かして転職をする人が増えてきました。
人材紹介業はそうした社会的ニーズに対応した素晴らしい職業です。
しかし、人の将来、人生を決定づけるということもあり、開業にあたってはさまざまな準備が必要であり、後述のように、人材紹介業の開業にあたっては会社を設立した方がいいのです。
今回は人材紹介業を開業したい人向けに、その流れや会社設立の可否などについて解説していきます。
人材紹介業は人材派遣業と違う!
人材についての開業と聞くと、人材派遣業をイメージしますが、今回紹介する人材紹介業は、人材派遣業とは違います。
人材紹介業は、いわゆる「転職エージェント」です。
求人したい企業から手数料をもらいながら、有用な人材をスカウトして求人側に紹介する仕事になります。
人材派遣業は、派遣社員を雇用し、職場が派遣先で、派遣先から手数料をもらい、派遣社員に支給します。
常に派遣社員は自社の社員ですが、人材紹介業は、求職者を求人先に紹介して終わりです。
常に雇用し、福利厚生や研修などを行う必要はなく、あくまで有用な方を求人先に紹介し、それに応じたマージンを得るというビジネスモデルになります。
人材紹介業開業にあたり法的要件をチェック
人材紹介業は人材派遣業ほど厳しくはありませんが、開業にあたって法的な要件が定められています。それらを確認していきましょう。
人材紹介業は許認可制
人材紹介業は誰でも開業できるわけではなく、国の許認可業です。
次項から説明する4点を満たしたのち、厚生労働省に人材紹介業の許可申請をし、それがOKになって初めて人材紹介業として仕事を始められます。
許可申請にあたっては、細かい書類の準備も必要になるため、適宜、社会保険労務士へ相談、許認可書類の作成の依頼をすることが望まれます。
人材紹介業の許認可申請は社会保険労務士の独占業務です。
合わせて、司法書士資格も持っている方だと、会社設立代行も可能になります。
要件1 基準資産額500万円以上
人材紹介業を開業する際には、500万円以上の「資産」が必要になります。
突然、資金難で倒産すると求職者が困ってしまいますので、財務状態を重視します。
基準資産額500万円以上とは
- 「資産-負債」≧500万円
- 資産のうち、150万円以上が「現金」「預金」であること
の両方を満たす必要があります。
金融機関からの借入は「負債」ですので、借入で500万円調達しても、これは基準資産額500万円を満たすことにはなりません。
借入、融資で基準資産を調達できない、と解してください。
ポイントは負債の算出方法であり、会社設立していれば、会社の貸借対照表で計算しますが、個人事業主として開業すると(人材紹介業は個人事業主も可です)、個人の住宅ローン、教育ローン、奨学金なども負債として計算します。
これらがある人は、実質的に個人事業主として人材紹介業の開業は難しいとお考え下さい。
要件2 事務所要件
人材紹介業は原則的に「自宅開業」が難しいです。
転職エージェントを利用したことがある人はわかると思いますが、プライバシーが守られた相談スペースなどが必要になります。
具体的には以下の要件を満たす事務所スペースを準備します。
1.職業紹介の適正な実施に必要な構造、設備・面談のための個室の設置・パーテーション等での区分がなされていること 2.他の求職者と求人者と同室にならずに対面の職業紹介を行うことができる・面談の予約制・事務所とは別の場所に賃貸部屋を確保するなど面談のための部屋を設ける 3.面談スペースと執務スペースもそれぞれ個人情報が守れる構造になっていること・部屋に鍵がついていること・書類の保管のために鍵付棚等がある |
この条件を満たす事務所を用意しないと開業できません。
以前は事務所は20㎡以上、繁華街の近く不可、事務所の名義人が代表者、などの要件がありましたが、緩和されました。
現在の要件の場合、レンタルオフィスなど(個室)を利用することも場合によっては可能です。
要件3 職業紹介責任者の資格
人材紹介業の開業にあたり、「職業紹介責任者」という人を置かなければなりません。
開業するみなさんが職業紹介責任者になることもできます。
職業紹介責任者になるには、以下の条件を満たす必要があります。
①成人である ②成年に達してから3年以上の就業経験(正社員だけでなくバイトでもOK) ③他の会社の社員ではないこと(出向・非常勤除く) ④職業紹介責任者講習の受講(許可または更新)が済み、受講証明書が発行されている |
必ず受講して、職業紹介責任者になっておきましょう。
※職業紹介責任者講習の実施機関等について
要件4 個人情報管理の徹底など
人材紹介業は求職者のプライベートな情報を扱うため、個人情報保護などの体制が徹底していることが必要です。
個人の思想・信条や宗教、門地などを聞くことは極めて問題があり、特段の事情がない限り聞くべきではありませんし、求職先の関係上合理的な理由で聴いた場合も、その情報管理の徹底が求められます。
開業するから個人事業主ではなく会社設立しよう!
人材紹介業の開業は、個人事業主でもできると書きましたが、個人事業主として行うメリットがほとんどありません。
一般的に、会社設立と個人事業主では下記のメリット、デメリットがあります。
会社設立 |
個人事業主 |
メリット |
|
社会的信用がある |
簡単に開業できる |
経費の範囲が広い |
定款などの作成義務がない |
責任の範囲が有限 |
自由な働き方ができる |
赤字繰り越しが10年である |
廃業手続きもすぐにできる |
利益次第で個人事業主よりも税率が下がる可能性 |
厚生年金に加入できないため、国民健康保険と国民年金だけでは老後が不安 |
最高税率が23.2%と所得税の約半分 |
|
デメリット |
|
設立までの手間がかかる |
社会的信用がない |
設立後の帳票作成や税務申告が大変 |
最大税率45%と法人税よりはるかに高い |
赤字でも法人住民税(均等割)がかかる |
無限責任で経営失敗のマイナスはすべて自分が負う |
社会保険へ加入しなければならない |
赤字繰り越しが3年までしかできない |
会社の廃業手続きが煩雑 |
経費で落とせる範囲が狭い |
一般的なメリットとデメリットはこうなりますが、人材紹介業の開業は簡単にできませんし、社会的信用がない業者に自分の人生を委ねたい求職者もいないでしょう。
そして、大きなポイントは「基準資産額500万円以上」という開業条件です。
これは融資によって充たすことは不可であり(融資は負債になる)、自分で融資によらない方法で調達しなければなりません。
貯めたお金があれば個人事業主として開業してもいいのですが、会社設立をして、資本金を500万円(以上)にして、出資を募る方法が適しています。
出資は借入ではなく、株式の発行、購入によるものであり、負債にはなりません(「純資産」になります)。
個人事業主では株式発行や出資を募ることができないので、必然的に会社設立すべきものとなります。
なお、税金面では
事業主体 | 会社設立 | 個人事業主 |
---|---|---|
所得税 | 代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その5%~45% | 事業の売上から「事業所得」を算出してその5%~45% |
個人住民税 | 代表個人の役員報酬を「給与所得」として算出し、その約10% | 事業の売上から「事業所得」を算出してその約10% |
消費税 | 課税売上1000万円以上の場合支払う(2年間は支払い義務がない特例もあり) | 課税売上1000万円以上の場合支払う |
法人税 | かかる(15%~23.2%) | なし |
法人住民税 | かかる | なし |
法人事業税 | かかる | なし |
個人事業税 | なし | かかる |
このような違いがあります。
年間売上約1000万円までなら個人事業主が納める「所得税」の方が、会社が納める「法人税」より安いのですが、採用手数料の業界平均額は、入社が決定した求職者の年収35%と言われており、年収400万円の人を9人紹介すれば売上1000万円を達成します。
業種的に年間売上1000万円を下回る可能性は低く、ここでも個人事業主を選ぶメリットがないと言えます。
人材紹介業を開業する場合、会社設立が第一選択肢になります。
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人材紹介業の開業資金調達
繰り返しになりますが、基準資産額500万円以上については、自己資金or株式発行による出資が必要です。
一方で、事務所要件を満たすオフィスを用意しなければなりません。
オフィスと契約するために借入をした場合、当然それは「負債」になり、基準資産額から減じることになってしまいます。
つまり、開業資金調達(不動産物件取得費や什器備品購入)などを借入で補おうとすると、開業に必須な基準資産要件が危なくなります。
なるべく多く(500万円以上)の資本金を調達するように取り組むか(資本金が多くなるデメリットもあります)、あるいは補助金などを活用することも検討してください。借入を行う場合も最小限にして、基準資産額要件をクリアするようにしないといけません。
- 自己資金(預金等)
- 資本金(会社設立が条件)
- 各種補助金、助成金
- 創業融資(借入)
これらをうまく組み合わせての開業資金調達が不可欠で、専門家のアドバイスをぜひ聞いてください。
人材紹介業の開業相談は「経営サポートプラスアルファ」にお任せ
人材紹介業の開業にあたっては、さまざまな要件や許可が必要で簡単に開業できません。
また、個人事業主として開業するのはメリットが少なすぎて、通常は会社設立をして資本金の出資を募る方法になります。
その他、借入をすると、資産が減るので人材紹介業の開業にはマイナスになります。
補助金や助成金なども活用して、負債を増やさない形で、基準を満たす事務所を準備する必要があり、専門家のアドバイスを受けながら開業準備する方がいいです。
人材紹介業は許認可申請も必要なので、その煩雑な手続き代行も含めてお願いできる専門家がいると助かります。
「経営サポートプラスアルファ」は、開業や資金調達についてのプロフェッショナルが揃っています。
人材紹介業という資金面で難しい開業についても適切にアドバイスします。
また、提携する専門家によって許認可申請代行もさせていただきます。
「経営サポートプラスアルファ」では土日祝日夜間も対応します。
遠隔地にお住まいの方はLINEやZOOM、チャットワークにて全国対応でオンライン相談させていただきます。
しっかり準備することで、人材紹介業のリスクを下げることができます。
ぜひご相談ください。